蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



トントンと、肩を叩かれる。


見れば瑞樹が、こっちと呼んでいた。


「めっちゃ飛ばして、45分強だって」


もう呆れている瑞樹に、ありがとうと返して、それと同時にタクシーに乗り込んだ。


目だけで礼すると、おじさんが微笑んでくれて、そのまま出た。


あたしは再び携帯電話に耳を傾ける。


「何するの?」


〈ん?暴れるの、分かんない?〉


「そう言われたって分からないわよ」


〈んじゃいいや、陽太。後の説明宜しく。ひとまずバイクでここまで来てるヤツ集めて〉


〈彗汰さん!両方いっぺんに言わないでくださいよ!どっち先やればいいんですか!〉


〈んじゃあ、バイク先。___んねえ、和佳菜。このまま電話切らないでいられる?〉


急に話のターンが回ってきて肩が揺れた。


「大丈夫だけど。バイクって…」


〈ならよかった。ん?バイク?暴れ回るには必要だからなあ〉


「え?」


〈ああ、和佳菜チャン。分かんないもんね。今時間ないから、後で陽太に聞いて〉


「え、…うん」


〈あは、イイコ。あ、集まった?…うん、そんなでじゅーぶん。んじゃ、行くか〉


はい、陽太。


そんな声がして、あっぶな!という声もしてどうやら持ち主が陽太に戻ったらしい。


〈人の携帯投げないでくださいよ。壊れても責任取らないくせに…〉


「陽太、大丈夫?」


〈あ、平気です。それで和佳菜さん、あとどれくらいで着きそうですか?〉


「45分くらいだって。警察の方は大丈夫?」


〈多分、大丈夫です。…彗汰さんが、いきなり“走る”っていうんで。それもそれで危ないんですけど…〉


「走る?」


彼はあー、と理解してから。


〈和佳菜さんがいた時はやってなかったですね。…ええと、簡単に言うと、道路を縦横無尽に走り回るっていうか〉




『中学生に入ってから、出会ったの。東本部に行く用事があって…その帰りに、走りに遭遇したの』


あれは千夏の話を聞きに真夜中抜け出した時。


彼女は寂しそうな顔で笑っていた。


『ああ、和佳菜ちゃんが来てからはやってないよね。ざっくりいうと、バイクで道を占領するって感じかなあ?』


『見たことがないわ…』


『仁にねだってみるといいよ。…きっとやってくれる』


あの子の笑顔は忘れることが出来ない。


本当にはかなくて、泣きそうな笑顔だった。


 

「…ああ、走り、のこと?」


〈あ、そうです!誰かから教えてもらったんですか?〉


「千夏ちゃんから」


一瞬向こう側が沈黙して。


〈まあ、言いそうですもんね〉


陽太が皮肉って、彼女のことを許していないことだけはわかった。