蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



「俺んちは、すごく仲のいい家族だったんだよ。月に一回みんなで旅行するくらいに」


瑞樹はそこに腰を下ろして、思い出すように笑った。


「でも、その両親が事故に遭った。…いや、事故なんかじゃなくて、消された」


「…まさか」


「親父は何かを知ってしまったみたいで。相談した母親も丸ごと。正面から、信号無視ったトラックに当たられて、死んだ」


その事故は故意に引き起こされた。


何よりも大切なものを、この人は失った。


「それが故意だって知ったのは、だいぶ後で。裏社会の人間のことを父親が調べてたのまでは、遺品とかで分かって…そこでマークまでたどり着けるようにしてくれた。親父はさ、やりとりしたものとか、全部取っておいてくれてたんだ。だから、あの人までたどり着くのは簡単だった」


そう言ってマークの元まで寄っていく。


「こいつは全部知ってて、俺を側に置いたんだ。“俺を憎むなら、側にいろ。隙を見て、首元を狙え”って。だから、俺はここにきた」


「…貴方の弟は、ずっと人を恨んで生きているけど」


「ああ、間違いなく俺のせいだと思う。俺が何も言わずにあいつをひとりにしたから」


なんだ、分かっているんじゃない。


「償うためにも、俺はこの手でこいつを殺すって。ずっとそう思って来たのにさ、ぽっくり死にやがって」


瑞樹がマークを睨む。


「そうよね。ほんと、パッと居なくなっちゃって、ほんと、ずるいよね」


あたしも睨む。


「ほんと、そう」



マークずるいじゃない。


勝手にいなくならないでよ、やることが貴方にはまだいっぱいあったはずでしょう。


「でもさ、この人の顔見ると思い出すんだよ。この世界でも楽しかったことと、嬉しかったこと、あったなあって」


もちろん、辛いことの方が多いけどさ。


瑞樹は泣きながらそう言う。


泣きながら、笑ってそう言う。



「ずるいやつの最期が、こんなんなんて、あんまりだろ」


「…うん」


「だから、俺らができることはひとつなんだよ」


「…ひと、つ?」


ねえ、貴方はなんでこんなに真っ直ぐにあたしを見て、恨んでいる人のためになろうとするの。


「ひとつだよ。お前が感じてた誤解を解くしか無い。お前以外にも誤解してた人はいっぱいいる。あの人だけが悪者なんて、そんなのあんまりだよ。やろう。あの人以外の悪人を捜そうよ」


貴方はやっぱり、どこまでも強い人だ。









『和佳菜さん。あのホテル事故には、罪を償わなければいけない人がいるんだ。それこそ、貴方を、マークを、…あの若い護衛を巻き込んだ、犯人が。マークあの日、あの場所で見たことをその人を守る為に言わなかった。あれは故意だった』


虚な目をして言うアラン。


演技になんて見えなかった。


『それって、誰なんですか』


首を横に振って、アランはため息をついた。


『分からない。私達にさえ、マークは言わなかったんだ。聞けば、決まってこう言う。”言ってはいけないのです。もし知られたら、…殺される。”と』


あれ、そういえばこのセリフ、何処かで聞いたことがあるような…。


『…あいつには従わなきゃいけない。じゃないと、殺される、と』


……ああ、そうだ。


これは佐々木さんが同僚から伝え聴いた話だ。


言ったら殺される。


従わなければ殺される。


キーワードは、“殺す”。


彼らは同一人物なの?


秘密を厳守することが望みの、その人が。


蓮の命を奪った人間なの?



「そいつを公表しよう。世界的に罪を償わなせるんだ」



そのためにやることはたくさんあるけど。



瑞樹の声にこくり、と小さく頷いた。