蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



「和佳菜、帰ろう」



どのくらい経ったのだろうか。


時間も忘れたあたしにドアを開けて声をかけたのは瑞樹だった。


「帰る…?どうして帰るの。あたしはずっとこの人のせいにしてきたの。違ったのに、全部違ったのに!!」


「俺だって事情は一緒に聞いてたよ。和佳菜は騙されていた側だったんだろ。悪くなんかないじゃない」


「それでも……あたしはずっと憎んできたの。ずっとこの人のせいだと思い続けてきたの!」


この人が悪いって思って生きてきた。


この人のせいにしないと生きていけなかった。


ずっとずっと。


生きていくのが苦しくて堪らないのに。


そう思って、あたしのせいで起こった事実を貴方のせいにしてきたの。



「そう思って当然だろ。アランもマークも、そう思われることをしてきたんだよ。あの人たちは謝れば許されるって思ってる。和佳菜は優しいから。でも今更謝ったってもう遅い…この人は、どんなことをしても帰ってこない」


「……っ!!」


そんなことを言わないで。


「お前だって同じだ。ここで謝罪をし続けて何になる?」


やめて。


「この人は死んだんだ。もうそれは変わらない事実なんだよ」


やめて。


「二度と帰ってこないんだよ」



「やめて!」





そんなことを言わないで。


帰ってこないなんて言わないで。


あたし達、やっと向き合えそうだったの。


未来に向けて歩き出すことが出来そうだったの。



「向き合うんだよ!和佳菜!」



肩を掴まれて、思わず顔を上げた。


その時瑞樹は。



「…泣いてるの?」


声も上げずに泣いていた。


「…わるいかよ」


「悪くなんてない。…けど、貴方が泣いている姿を見たことがなかったから」


瑞樹は感情的になりにくい。


基本的に無関心で、どんなことにも興味がない。


いつも絶望した目を隠しもしていなかった。


そんな貴方が、…泣いているのだもの。



「…俺はあの人を、この人を恨んで生きてきたよ」



それは、決して聞いたことのなかった、瑞樹のお話。