「和佳菜、帰ろう」
どのくらい経ったのだろうか。
時間も忘れたあたしにドアを開けて声をかけたのは瑞樹だった。
「帰る…?どうして帰るの。あたしはずっとこの人のせいにしてきたの。違ったのに、全部違ったのに!!」
「俺だって事情は一緒に聞いてたよ。和佳菜は騙されていた側だったんだろ。悪くなんかないじゃない」
「それでも……あたしはずっと憎んできたの。ずっとこの人のせいだと思い続けてきたの!」
この人が悪いって思って生きてきた。
この人のせいにしないと生きていけなかった。
ずっとずっと。
生きていくのが苦しくて堪らないのに。
そう思って、あたしのせいで起こった事実を貴方のせいにしてきたの。
「そう思って当然だろ。アランもマークも、そう思われることをしてきたんだよ。あの人たちは謝れば許されるって思ってる。和佳菜は優しいから。でも今更謝ったってもう遅い…この人は、どんなことをしても帰ってこない」
「……っ!!」
そんなことを言わないで。
「お前だって同じだ。ここで謝罪をし続けて何になる?」
やめて。
「この人は死んだんだ。もうそれは変わらない事実なんだよ」
やめて。
「二度と帰ってこないんだよ」
「やめて!」
そんなことを言わないで。
帰ってこないなんて言わないで。
あたし達、やっと向き合えそうだったの。
未来に向けて歩き出すことが出来そうだったの。
「向き合うんだよ!和佳菜!」
肩を掴まれて、思わず顔を上げた。
その時瑞樹は。
「…泣いてるの?」
声も上げずに泣いていた。
「…わるいかよ」
「悪くなんてない。…けど、貴方が泣いている姿を見たことがなかったから」
瑞樹は感情的になりにくい。
基本的に無関心で、どんなことにも興味がない。
いつも絶望した目を隠しもしていなかった。
そんな貴方が、…泣いているのだもの。
「…俺はあの人を、この人を恨んで生きてきたよ」
それは、決して聞いたことのなかった、瑞樹のお話。



