なにをするのも覚えていなくて。


気がついたら、空港にいて。


気がついたら、飛行機に乗っていて。


気がついたら、アメリカに着いていて。


気がついたら、マークの家に着いていた。



本家は白くて大きなお屋敷で、あたしが出入りしていた頃と変わらぬ綺麗なお城みたいな家だった。


古めかしいあの倉庫よりもこの家にいることが多かった。


「懐かしいな」


隣で瑞樹が見上げながらそう言った。


白い家に、青空が映える。



貴方の葬式に似合わない、綺麗な青空だ。




インターホンを鳴らすと、使用人が慌ただしく出てきた。


[どちら様ですか?]


ウエイトレスはあたしのことも、瑞樹のことも知らない若い子だった。


怪訝にドアを半開きにしてドアからそっと顔を半分くらい出して明らかにこちらを窺っているのを見ると、簡単に開けてもらえなさそうだ。


[マーク様の元側近です。亡くなったと聞いたので、供養にと]


[すみません。旦那様から、不用意に人を入れてはいけないと言われておりますので]


やはりか。


この人、最近入った子なのかもしれない。


あたしはともかく瑞樹も知らないとなると、マークに会えないまま帰ることになってしまうのかな。


それだけは避けたい。


瑞樹がまだ交渉しているけど、難しいようで。


どうしようかと考えていると。



[どうかしたの?]



奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



ウエイトレスが安心したように早口で告げる。


[存じ上げないお客様が見えていて…]


姿を見せたのは。


「セブさん…」


ホテルにいた頃とてもお世話になったセブさんだった。