ドタバタと店舗の方で音がして、それから妙に焦った声で。


「和佳菜!」


とあたしの名が聞こえた。


「坊ちゃん、これは一体…」


遠くで佐々木さんの声が聞こえた気もしたけれども。


その時、あたしといえばテレビに釘付けで。


『ニュース速報です』


画面のテロップを見たまま動くことが出来なくなっていた。




「……嘘」


そこにはっきりと書かれていた文字は。



『マーク・スティーブン。死亡』



何が起こったのか分からなかった。


マークが、…死んだ?


「…瑞樹」


辛うじてダイニングにやってきた瑞樹をそう呼んだけれど、その先をなんと続けるべきなのか。


正しい判断ができない。


「今すぐアメリカに飛ぼう。あの人に会いに行くんだ」


「…あたし、別れているのよ」


「それでもあの人が愛していたのはお前だろ」


「…知らない」


「和佳菜!」


「あの人が死ぬわけがないでしょう!どんなことの先をよんでいて、頭がきれて、あたしの扱いも上手な……あの人が、簡単に殺されるなんて……」


この瑞樹の焦りようからして、嘘ではない、わかっている。


分かっているの、だけど。


うまく作動しないの、おかしいわね。


受け入れを拒否しているみたいで動いてくれない。


「セブから連絡が来た。明後日葬式だそうだ」


葬式?ねえ、誰の。


「…なんで」


「分からねえ。俺も一緒に行く。だから和佳菜、アメリカに渡ろう」


「……マークは」




「マークは死んだ。和佳菜、分かってくれ」




音もなく涙が頬を伝って、その冷たさからようやく、理解した。



貴方が黙ってこの世からいなくなったことを。