寝ずに過ごした。
約束の刻はとうの前にすぎた。
いつ連れていかれるか分からないから、そんな恐怖を味わうことがないよう、ずっと起きていたのに。
「…和佳菜様」
哀れんだ顔なんてしないで。
迎えに来ないことはいつものこと。
嘘つきなのもいつものこと。
期待なんて初めからしていない。
泣くのもバカらしい。
「…遅いわね」
そう、曖昧に笑ってあげるの。
あたしが帰りたい場所はそこじゃない。
ちゃんと伝えてあげる。
だから、早く来て。
あたしは行かない、そう伝えるから。
「…テレビでもつけましょうか」
気まずい空気を払拭しようとしたのだろう。
佐々木さんがテレビのスイッチを入れた。
だけど、あたしは。
流れ込んできた言葉に、何も言えなくなった。
『ニュース速報です。麻薬密売による国際指名手配を受けている、Mark Steve容疑者が昨夜未明、道路を横断中に複数名の男に刺されました。意識不明の状態で病院に搬送されましたが、死亡が確認されました。犯人は未だ、逃走中です。他にも10人以上が刺されましたが、みな軽傷で済んでいまして、警察は通り魔を視野に入れて捜査に…』