蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



車の中にいたはずの仁は外に出てきていて。


振り返ったあたしの元まで歩いてきた。


「どうしたの?忘れ物とかした…」


「ごめん」


かしら、とつづけたかった。


だけど仁の謝罪に遮られて、あたしのかしらはどこかへ飛んで行った。


「…え?」


「…ちゃんと言ってなかったから。ごめん、それだけ。じゃあな」


「ちょっと待ってよ」


なによそれ。


言いたいことだけ言って逃げるの?


「…いつか、この苦しみを終わりにしたいって思うの」


それならあたしにだって言わせてよ。


勝手に終わらせたりしないで。


「憎みつづけたくなんてない。いつだって終わりにしたい。だけど!」


「大丈夫」


あたし、本当に大阪にきて泣き虫になったみたい。


仁に抱きしめられただけで、目頭が熱くなった。


ううん、きっとそれだけではないのでしょうね。


『大丈夫』


たった一言で、それだけで。


あたしを安心させる能力とはもうよくわからない。


「憎み続けても、恨み続けても、大丈夫。俺はずっと和佳菜が」



プップーー!!


思わずふたりで振り返った。


ロータリーが混雑し始めたらしい。


綾の乗っている車の後ろがクラクションを鳴らした。


思わずふたりで見合わせて。


「ふ、あはははは!」


大声で笑った。