車の中にいたはずの仁は外に出てきていて。
振り返ったあたしの元まで歩いてきた。
「どうしたの?忘れ物とかした…」
「ごめん」
かしら、とつづけたかった。
だけど仁の謝罪に遮られて、あたしのかしらはどこかへ飛んで行った。
「…え?」
「…ちゃんと言ってなかったから。ごめん、それだけ。じゃあな」
「ちょっと待ってよ」
なによそれ。
言いたいことだけ言って逃げるの?
「…いつか、この苦しみを終わりにしたいって思うの」
それならあたしにだって言わせてよ。
勝手に終わらせたりしないで。
「憎みつづけたくなんてない。いつだって終わりにしたい。だけど!」
「大丈夫」
あたし、本当に大阪にきて泣き虫になったみたい。
仁に抱きしめられただけで、目頭が熱くなった。
ううん、きっとそれだけではないのでしょうね。
『大丈夫』
たった一言で、それだけで。
あたしを安心させる能力とはもうよくわからない。
「憎み続けても、恨み続けても、大丈夫。俺はずっと和佳菜が」
プップーー!!
思わずふたりで振り返った。
ロータリーが混雑し始めたらしい。
綾の乗っている車の後ろがクラクションを鳴らした。
思わずふたりで見合わせて。
「ふ、あはははは!」
大声で笑った。