「泣いてない」
「嘘つけ」
「嘘じゃない。顔を見ていない分かったフリしないで」
寂しくなんてないわ、大丈夫、平気。
悲しいなんて思っていないわ、少しも、全く。
「ならこうしてやる」
あたしを無理やり振り返らせて、正面からあたしを抱きしめた。
「…やっぱ泣いてんじゃん」
「デリカシーないわね」
「うん、ごめん。泣かせたの俺だしね」
「本当に最低」
「知ってる」
「受け入れないでよ。…許したって思ってたのに。今更、貴方を責めてもなんの意味も持たないって思っているのに」
気持ちってこんな上手く消化しきれないものなのか。
時間が経っているのに、もう平気だって思ったのに。
「そういうスイッチ入れたのは俺だから。俺のせいだよ」
「…信用したいのに、思い出すの」
「分かってる。お前の居場所、必ず返すから。あれは全部嘘だ。守るためだったからってあれは違った。本当に反省してる」
知っている。
貴方が反省していることくらい、大丈夫、理解はしているの。
頭と心は残念ながら別らしいけど。
「許すなんて、まだ言えないみたい」
心とはとても難しいものらしい。
だけど、それを手に入れたあたしは。
いい加減、ロボットちゃんが抜けたでしょう。
「今日は俺の部屋で寝ないか?」
「…信用していない相手と?」
「第一歩てことで」
「随分大きく踏み出さなくてはいけないのね」
「手は出さないから」
「当たり前でしょう」
「…ひとりにはしたくないから」
なによ、よく分かっているのね。
ひとりになったら、あたしもっと泣いてしまいそうだもの。
「約束できる?」
「男に二言はないから」
真っ直ぐなその瞳に、あたしは満足して笑った。