蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



「うちの者が申し訳ありません」


すみません、と頭を下げる吉野さんにあたしは寧ろ頭を下げた。


「内輪の揉め事に付き合わせてこちらこそごめんなさい」


「和佳菜が謝ることはねえよ」


「いいえ、照史だって一応あたしと同じ家の血を引いているの。身内の問題を他所様で起こしてしまったのよ。謝罪は当然よ」


「でも、お前だって迷惑してんだろ?あいつに」


照史が消えたドアの方に目をやる仁が、なんとも言えない顔でそう言った。


「好きではないけれど、そんなのママと琢磨以外はみんなそうよ。照史だけじゃないの。あの家に住む人達は、あたしを駒だとしか思ってない」


「あの家?」


「東京にある、水島の本家よ。あたしは片手で数えられるくらいしか行ったことがないけど」


本家にはこの短い人生でほぼ行っていないのに、嫌な思い出が大量に思い浮かぶ。


水島は嫌いだ。


あの会社も、あの家も、みんな。


そうか、と言った仁はそれ以上あたしには何も聞かなかった。


代わりに頭を撫で、小さく微笑むと。


「和佳菜、今日はもう遅い。ここらへんは夜は危ない輩が多いから、ひとまず今日は泊まっていけ」


仁は何とかしてあたしを引き止めたいのだと思った。


だけどあたしは…この大阪に、照史のいる大阪にいたくないのだ。


「…いやよ。かえる」


ふるふると、首を横に振って拒否した。



子供みたいなあたしに、仁はなおも優しく微笑んで。


「林は地下にいる、しばらくは大人しくしてるはずだ。もちろん、いつもより人数も増やす。体制も強化しよう。和佳菜が安心出来ることならなんだってする」


あたしの目を見て、はっきりと嘘なく、伝えてくれる。


「危ない目に遭ってからじゃ遅いんだ。雅から傷ひとつ付けずに帰せ、って言われてる。あいつ怒ったら怖いんだ」


どこか焦ったように早口で続ける仁に、思わずぽかんとした。


「いや、違う」


と思ったら否定してきて。


「何が違うの?」


貴方の真意を聞こうと。




目が、合った。



強くて格好良い、オトコの目。


それが、こちらを見ている。


真っ直ぐに、見ている。


ドクンと、大きく心臓が跳ねた。


自分の頬がみるみるうちに赤くなっていく様が容易に想像できる。


心拍数が増えていく。


呼吸が普段より浅くなった。


彼はゆるく笑って。


「俺の手で和佳菜を護りたいからだ」



そう言った。