「うちの者が申し訳ありません」
すみません、と頭を下げる吉野さんにあたしは寧ろ頭を下げた。
「内輪の揉め事に付き合わせてこちらこそごめんなさい」
「和佳菜が謝ることはねえよ」
「いいえ、照史だって一応あたしと同じ家の血を引いているの。身内の問題を他所様で起こしてしまったのよ。謝罪は当然よ」
「でも、お前だって迷惑してんだろ?あいつに」
照史が消えたドアの方に目をやる仁が、なんとも言えない顔でそう言った。
「好きではないけれど、そんなのママと琢磨以外はみんなそうよ。照史だけじゃないの。あの家に住む人達は、あたしを駒だとしか思ってない」
「あの家?」
「東京にある、水島の本家よ。あたしは片手で数えられるくらいしか行ったことがないけど」
本家にはこの短い人生でほぼ行っていないのに、嫌な思い出が大量に思い浮かぶ。
水島は嫌いだ。
あの会社も、あの家も、みんな。
そうか、と言った仁はそれ以上あたしには何も聞かなかった。
代わりに頭を撫で、小さく微笑むと。
「和佳菜、今日はもう遅い。ここらへんは夜は危ない輩が多いから、ひとまず今日は泊まっていけ」
仁は何とかしてあたしを引き止めたいのだと思った。
だけどあたしは…この大阪に、照史のいる大阪にいたくないのだ。
「…いやよ。かえる」
ふるふると、首を横に振って拒否した。
子供みたいなあたしに、仁はなおも優しく微笑んで。
「林は地下にいる、しばらくは大人しくしてるはずだ。もちろん、いつもより人数も増やす。体制も強化しよう。和佳菜が安心出来ることならなんだってする」
あたしの目を見て、はっきりと嘘なく、伝えてくれる。
「危ない目に遭ってからじゃ遅いんだ。雅から傷ひとつ付けずに帰せ、って言われてる。あいつ怒ったら怖いんだ」
どこか焦ったように早口で続ける仁に、思わずぽかんとした。
「いや、違う」
と思ったら否定してきて。
「何が違うの?」
貴方の真意を聞こうと。
目が、合った。
強くて格好良い、オトコの目。
それが、こちらを見ている。
真っ直ぐに、見ている。
ドクンと、大きく心臓が跳ねた。
自分の頬がみるみるうちに赤くなっていく様が容易に想像できる。
心拍数が増えていく。
呼吸が普段より浅くなった。
彼はゆるく笑って。
「俺の手で和佳菜を護りたいからだ」
そう言った。



