心臓が一瞬止まった気がした。


何故だ?何故?いつ知られた?


「どうして…」


「瑞樹さんが、銀深会(うち)に潜入しようとした時に俺に声かけてきたんだ。お前のコネで入れてくれないかって」


「じゃあ、初めから知っていたってこと?」


「そ。瑞樹ってそのままの名前にするとまずいから、雅って自分で付けてたよ」


なによ。


初めから言ってくれていたら、あたしこんなに焦ることも無かったのに…。


「綾も知っていたの?」


「当たり前だろ。仁みたいに立場が上じゃねえけど、瑞樹さんには世話になってたんだから」


「…そういえば、瑞樹と2人ってどんな関係なの?」


確かに瑞樹の方が2つほど年上だけど、接点なんて思い浮かばない。


「忘れた?瑞樹さんが、獅獣出身なの」


「…それは知っていたけど」


「ええ?じゃあわかるんじゃない?和佳菜がアメリカにいる間2人くらい日本人来たでしょ。うちから、マークの方に引き渡されてたんだけど」


驚いたのか綾が大きな声を上げた。


しぃと、人差し指を立てて唇の前に置くと。


悪かったって、と綾が沈んだ小さな声を上げた。


「そのひとりが瑞樹ってことは知っている」


「そうだ。あともう1人、蓮さんは知らねえか。長瀬 蓮さん」


「長瀬 蓮…」


「ああ。俺らの先代なんだ。自然消滅した獅獣を復活させた、すげえ人たちなんだよ」


誇らしげに語る綾に、胸が熱くなった。


『俺だって、暴走を誇らしく思ってるよ。瑞樹も、な?そうだろ?』


にかっと笑う、眩しい笑顔が見えた気がした。


「…蓮が、そうなのね。蓮と、瑞樹が…」


蓮より瑞樹が先に側近になったから、蓮が日本人であること以外は何も知らなかった。


あたしはなんにんも、貴方のことを分かっていなかったみたい。


「は?え?和佳菜、なんで泣く?やっぱ、どっか痛えのか?」


オドオドする綾に、黙ってティッシュを差し出す仁。


このふたり、本当に似ていないなあ。


「どこも痛くないわよ。大丈夫、綾。仁もティッシュペーパーありがとう」


「なにがあったんか知らねえけど、元気出せよ」


ごつんと、綾のグーパンチが頭に当たって。


かなり頭に響いたけど、だけど、笑えた。


ねえ、蓮。


貴方の記憶はあたしだけが持っていたわけじゃ無かったみたい。


仁にも、綾にも、変わらず刻み続けているのよ。