右には綾、左には仁。
そんな形でタクシーに乗り込むことなんて、恐らく今まで無かった。
ノープランだったあたしを仁がひとまず、と銀深会の関西支部に呼んでくれたのだ。
車は少々忙しくて出せないらしく、タクシーで向かうことに。
「気にするなよ」
仁がそう言って、頭を撫ぜた。
なにをかは、鈍いあたしにだって分かった。
「そうだぜ。どうしてあいつの負け惜しみだよ」
綾もそう言うけど、あたしにはどうしてもそうは思えなかった。
もう外に出られない人間が負け惜しみにあんなことを言う?
あたし達の仲を引っ掻き回したところで彼に得はひとつもないのに。
「和佳菜が疑いたくなるのも暫く会ってねえから分からないでもねえが、あいつらだいぶ成長したんだ」
「会ったの、さっき久しぶりに。青山の組員捜しに付き合わせたから」
「は?俺聞いてないんだけど」
「え?」
じっと2人に睨まれた綾は瞳を白黒させる。
「…悪いって。佐々木さんに呼ばれた時、あいつらもいたんだもん。連れてけって煩かったんだもん」
「なら、俺に連絡入れるのは当然だろ?勝手に行動して何かあったら責任とれんのかよ」
「いいじゃん、何もなかったんだし」
「は?なんかあったらの話をしてんの」
「…仁?」
あたしがそう呼べば、ピクリと、仁の肩が震えた。
「こんなところで言い争わないで。綾も、今度からは連絡しなさいね?いい?」
…分かったって、と綾の小さな返事が聞こえたからあたしは笑って。
「じゃあもういいでしょう?喧嘩は他所でして。ここは貴方達の車じゃないのを忘れないで」
ちらりとバックミラーを見るとタクシーの運転手さんと目が合った。
ごめんなさいと、目を伏せると、苦笑いで返された。
ただの子供の喧嘩にしか見えていないのだろうな。
この2人、裏社会では凄い人たちなのだけどね。
「…てか、さ?そういう和佳菜が一番悪くね?」
綾が呆れたようにそう言った。
「へ?」
「頼むから無茶をしないでくれ」
仁も頷いているし。
「そんなことを言われても、救いたかったのよ」
「だからって、時限爆弾はないだろ」
「どこまで知っているの?」
「佐々木さんから、全部教えてもらった」
なんてことを…。
思わず頭を抱えた。
佐々木さん、いくら信用できるからと言っても、全てを話してしまうのはよろしくないでしょう。
「あの作戦を思いついたのは瑞樹だけどね」
言ってから、しまったと、思った。
「…あ、いや。瑞樹というのは」
「大丈夫、知ってる」
仁が穏やかな目でこちらを見た。
「え?」
「瑞樹は、雅だろ?」