蒼の花と荒れる野獣Ⅱ





「おおきに」


玲が軒先で頭を下げた。


「礼なんて言わなくていいのよ」


「いえ、やっぱり和佳菜さんおかげやと、おもとっりますから」


その真っ直ぐな目に少し安心した。


ここは大丈夫だ、なんとかなる。


「あとは、お前に任せていいな」


仁の問いかけに、玲は小さく顎を引いた。


「はい、うちのことなんで、うちで解決します。他所様に出ていただいてほんに申し訳なくおもております」


「思ってもいないことを」


そう笑う時間ももう少ないようだ。


もう夕刻、日が沈みそう。


今夜の宿まで考えていなかったから、宿探しを始めなくては。


「和佳菜ちゃん」


玲と共に軒先に出ていた彼女がそうあたしを呼んだ。


「…千夏ちゃん」


「千夏、ここに残る」


彼女はそう言って柔らかく笑った。


それでもう、わかった。


「…どうか幸せでいて」


「千夏は幸せになれるよ。その台詞は、千夏が和佳菜ちゃんにそっくりそのまま贈ってあげる」


「…幸せ、ね。ずっとこのままは難しいわね」


「それでも千夏の命の恩人だから、困った時は呼んでね。そうじゃなくても、ね」


「ええ、また逢いにいくわ」


「約束だよ?」


「もちろん」


全てに打ち勝って、必ず。


「それから、仁」


彼女は仁のことも呼び止めて、悲しげに微笑んだ。


「仁のことは諦める」


「ああ」


「本当に大好きだったの。あの日急に居なくなってごめんなさい。だけど、大好きだったのは嘘じゃないから…だから」


「知ってる」


仁が振り向いた。


優しい優しい笑顔だった。


「千夏が俺のこと好きだったのは、ちゃんと分かってた」


「うん…」


「だから、もう気にしなくていい」


「うん。もう気にしないよ。…千夏は仁とは幸せにはならなかったけど」


近くにいたあたしを引き寄せて。


「…この子は大切にしてね」


あたしを大切に抱きしめてから。


そっと背中を押した。


「千夏ちゃん…」


「また、会おうね。和佳菜ちゃん。幸せになってね…?仁も」


彼女は心なしか泣きそうに見えた。


「行こう」


仁のその言葉に頷く。




「また、いつか」




逢える日を、願って。