ドクン、と嫌な心臓の音が聞こえた。
今、なんて言った?
母を殺した、とは。
これは、比喩的な表現なのかしら?
それとも。
「ねえ、聞き間違いをしたのかしら。弟さんが殺したって」
「間違えてなどおりません。弟は母を殺しました。…紛れもなく、事実です」
俯いている佐々木さんの顔は見えない。
だけどその暗い声が、容赦なくあたしに事実だって言う。
「どうして…」
「分かりません。弟は昔から寡黙で大人しかったので、何を考えているかはさっぱりわかりらないのです」
佐々木は真っ直ぐ、あたしの瞳を見た。
暗い声と動揺に目が、真っ黒だ。
何が見えているのかもわからない。
「だからわたくしは弟に聞きたいのです。母を何故殺したのか」
「でもっ、その弟さんとあたしにどんな関係が」
「あのsugarで会っていた人物が弟と深い関わりを持っていると、ある情報屋から情報を得たのです。信用ある人間なので、恐らく確かな情報でしょう」
佐々木さんが、信用する人間とはどんな人なのだろう。
なんて、邪念を振り払って。
「佐々木さんと弟さんは仲が良かったのですか?」
なんでもない話をしようと心がけた。
「異母兄弟でしたが、仲は良かったはずです。堅物な弟と、快活なわたくしで、性格は異なっていましたが、とても息が合う。いいコンビだったと、思っています。
____そう思っていたのは、
わたくしだけだったのかもしれませんが」
面白くもないのにへらりと笑った。