それを境にポロリ、ポロリととあとからこぼれ落ちていく。
「あれ、何故だろ…」
分からない、分からないことが何故か心地よかった。
頭の中で分からなくても、なんとなくこころがあたしの心がそれを理解しているから。
頭でなんて分からなくてもいい。
そう思えたことなんて初めてだった。
「…あそこには幸せが詰まっていたのでしょうね」
「そうなの、あの頃のあたしはマークといる時間がすごく幸せで…」
幸せで、堪らなかったの。
『あんたは分からねえだろうな。小さい頃からずっと家族みてえに暮らしてきたここのあったかさをさ』
ねえ、椎田。
貴方はあたしの考えていることをきっと少しも読めなかったでしょうけど、あたしは貴方の気持ちが今分かったわ。
いいえ、今、思い出したのね。
あたしが昔いたあそこは、正直ここよりずっと汚い世界だったわ。
だけどあの場所には確かに幸せはあって。
同時にあの場所にも確かに孤独もあったはずなのに。
あたしは見つけられていなかった。
ああ、あたし、また同じことをしているのね。
2年前のホテル火災。
あれで嫌ってほどに学んだはずなのに。
どうして忘れてしまうのだろう。