「それは、ありがたいお言葉だけど」
「信じていませんか」
「…そんな、責めるような言い方しないで頂戴。だけど、貴方は言ったでしょう?あたしをMargaretに置いたのは、ある人を探すためだって」
そう、それはあたしが可哀想だとか、大切だとか、そんな感情から来ているわけではない。
「例え、貴方がマークを崇拝していなくても、所詮あたしは誰かの為の存在よ」
あたしの為、なんて誰も思っていないの。
こんなに虚しいことってある?
ぐっと唇を噛みしめれば、血の味がした。
…痛い。
苦しい。
痛い。
苦しい。
ねえ、どうしたら。
“ あたしを見てくれる_______________? ”
「和佳菜様」
自然と俯いてしまった顔をゆっくりあげた。
だって貴方の声があたしが思う何倍も優しかったから。
「少々誤解が生じたようなので、丁寧に説明させてもらってもいいですか?」
誤解?
今更なにを?
それでも真っ直ぐな瞳に引き寄せられるように。
こくりと頷いた。
「貴女はマーク様にも、仁にも、愛されていますね」
唐突になんだ、と思いながら。
マークには今になっても、愛されていたか、と聞かれたら、二度も側にいることを許されていないから、もうなんとも言えないけれども。
仁に至っては。
「優しくはされているけど」
あれが“ 愛 ”だと認識することは今もできない。
仁はみんなに優しい。
その優しさはあたしだけに与えられるものではないと分かっているから。
「では、どうして優しくされているのか。という論点でも構いません」
そう言ってから。
「初めはその意味がよく分かりませんでした。坊っちゃんが貴女を連れてきた時は、貴女は間違えなくわたくしが探し求めている人を見つけ出す、駒となってくれると。そう、思っていました」
思っていた?
そこ過去形に眉を顰める。
「…なにを言いたいの?」
「貴女の周りの人間がどうしてこんなにも、貴女に溺れるのか、最近ようやく分かってきました」
「何故?」
「貴女は無性の愛をくれるからです」
無性の愛?
「あげた覚えはないけど」
「無意識、なんでしょうね。誰とも壁を作らず、打ち解け、頼る。貴女はわたくし達を必要としてくれる。だから、側にいるのです」
自分のことをここまで分析されたことなどない。
いや、分析されたとしても、決してその情報が直接あたしに入ってくることはない。
「仁をはじめとした獅獣の人間は、みな愛に飢えている人間です。マーク様も、わたくしたちも、みな同じです。どこか欠落した人間性から、疎まれ、怖がられる。それが嫌だけど、対処法が分からない。だけど、貴女はなんでも受け入れてくれる、安心感を持っている」
「…なんだか恥ずかしいわね」
「そうでしょうか?ただ、魅力を語っているだけなんですけど」
彼も自らを欠落した人間性を持つと語ったけれど、欠落したというよりは人よりはっきりしているだけなのだろう。
それを疎ましく思う人間もいる。
「欠落した人間性を持つって佐々木さんは言ったけれど、あたしも持ってるのよ。欠落しているの。だからこそきっと分かり合えたのよ」
あたしたちにはあたしたちにしかわからないことがある。
あたしたちにしか見えない世界がある。
それでいいじゃない。
どうして誰かに否定される必要がある?
「あたし達にしか生きられない生き方がある。それを楽しみましょうよ」
ママも蓮も、あたしに“普通”を望んだけれど。
ごめんなさい、あたしにはできないみたい。
これはこれで楽しいわ。
生きているって実感できるわ。
「そう、ですね」
心から貴方が笑った気がしたから。
やっぱりあたしは間違えていなかったんだ。
そう感じて、ほっと胸を撫で下ろした。



