ぐっと、組長が押し黙る。


「マジで俺らのことなめてんだろ!情報がそっちにあるからって!」


椎田が吠えて。


捕えろ、と低い声が耳に届いた気がしたから。


「こちらに交渉権があることを忘れないで」


隙のない笑顔で、僅かに距離を取り。


右手に、佐々木さんから受け取った携帯電話を掲げた。


「これは貴方達のタイマーとは違って自由に止めることができるのよ。もちろん、早めることもね」


タイムリミットが示されるタイマーは青山組の敷地内にいる人全員に自動配信される。


当然佐々木さんの携帯電話にも自動配信されている。


こちらからそのタイマーを止める機能はない。


嘘つきは嫌いだ。



それなのにどうしてあたしは嘘をつき続かなければいけない人生を送っているのだろう。


矛盾ばかり、そんな自分に少し涙が出そうになった。


「…じゃあ、それを取るだけだ」


変に真っ直ぐな椎田はそう言って、飛びかかろうとする。


「椎田」


…組長の言葉が無ければ、だが。


「…やればいいんか?」


影を含む組長の顔はうなだれていてよく分からない。


「組長!」


「静かにせえ」


椎田がギリリと奥歯を噛み締めたのがわかった。


「ええ、ではこれに」


カメラを向けた、その時。

顔を上げて、にっと笑ったその笑みは今まで見た彼の表情の中で1番冷たかった。




「あとで、覚えとれよ。クソガキ」