これは千夏ちゃんを調べている時に瑞樹が見つけた情報で、新幹線の車内で目を通しておいた資料の中にあった。


隠しもせず探していると言うことは、必死なのだとすぐに分かってしまう。



「残念ながら、その望みは叶わないわよ。あの子は、あたしの側におくのだから」


「じゃああんたがこっちに来たらいいんじゃねえのか?」


黒い目がこちらを覗く。


「何を言っているの?」


「水島サマが、こちらの者になってくれんなら丸く収まるはずなんだけど」


無知な男。


それ、マークの前で言ったらどうなるのでしょうね?


「あたし、もうマークの側に行くことは決定してるの。この組のために貴方がマークに歯向かえるならどうぞお好きにして」


無理だとは思うけれども。



あたしにだってあの人の真意がまだ分かっていない。


だけど、あたしをアメリカに連れ戻したい、ということだけははっきりと伝わっている。


それさえも知らない貴方は愚か者だ。


「…てめえは俺らに協力するんだろ?てめえらだって何かしら俺らと手を組んでいいことがあるんだろ?東屋なんか、俺にしたらどうでもいい。俺がまもんのは今しかねえ」


「…そこまでしてここが大事?」


「あんたは分からねえだろうな。小さい頃からずっと家族みてえに暮らしてきたここのあったかさをさ」



その時、なにかがぷつんと切れた。




「暖かい?ここが?」




何言っているのだろう、この人。



一体なにを見てきたのだろう。



どうして彼女が今ここにいないのか。



どんな気持ちでここにいたのか。



想像さえ出来ないのだろうか。



千夏ちゃんに久しぶりに会ったあの日。


あたしはあの仮面を剥すことに成功した。



嘘に嘘を塗り重ねてきたあの子は愚かで、だけど寂しそうで。


孤独がよく似合う少女だった。


そんな人にしたのは誰?


そんな人に堕としたのは誰なの?



闇から救うことさえ出来ない人間が、なんで暖かいなんて言える?


「…やはり、分からない人はわからないのね。佐々木さん、もう行きましょう?」


「もう、ですか?」


驚いた佐々木さんがあたしを二度も見た。


「付き合っていられないわ。この場所が本当に暖かいと思っている勘違い野郎がいるのなら、手段は選ばない」


「てめえ、何言ってんだ」



こちらこそ、なに言ってるのという感じよ。




「おめでたい人はおめでたいなりに考えて。もう我慢できないわ」