反射的に顔を顰める。


「やめてくださいよ。鼓膜が破れます」


「これくらいで破れる鼓膜などないです」


平然と言い切る佐々木さんにため息以外に出るものは無かった。


「別に一人で行こうとなんて思っていませんよ?瑞樹か、佐々木さん。どちらかがついてきてさえ、くださればあたしが逃げる必要なんてないでしょう」


「僕はパスだよ」


ふと顔を上げると、階段から降りてきた瑞樹と目が合った。


「なぜ?」


「誰かさんのお陰で、銀深会が忙しくなったの。潜入どころか雑用だらけで忙しいったらありゃしない」


わざと疲れた、みたいな顔をする瑞樹は見せつけているようで解せない。


どかりとソファに座る瑞樹は以前よりは余裕が出来たようだ。


「今暇でしょう!一緒に行ってくれたっていいのに」


「今は暇そうに見えても実は暇じゃなかったらするんだよ」


「今の貴方の一体どこが暇じゃないのよ」


瑞樹はあたしに言葉には反論せずにゆっくりと目を閉じた。


聞かない、と意思表示をされた気分。


「…佐々木さん!」


ぶんっと、思い切り佐々木さんに顔を向けた。


もう貴方しかいないのよ!


青山のあの頭と話したいことがいろいろある。


だけど、普通に考えて仮にもマーク側のあたしが遠くからメールだのなんだのを使って連絡を取ろうとしても、恐らくは信じて貰えないだろう。


地位だけを言うなら、こちらが確実に上。


そんな人間が取引をしようだって?


こちらの思う通りに進むとしか思えないだろう。


ならばそれを利用させてもらおうじゃないの。


「どうしてそこまでして大阪に行きたいんですか?」


「決着をつけたい相手がいるからですよ」


「…益々、行く気が失せました」


「そんなこと言わないでください!」


じっと佐々木さんの目を見つめる。


大丈夫、これならちゃんと行かさせてくれる。


そんな自信があった。


佐々木さんはしばらく考え込むと。


「どこに行きたいんですか?」


駄々っ子になったあたしに視線を合わせて言った。


「だから、大阪ですよ?」


「大阪にもいろいろな場所がありますよね?」


ああ、分かりやすく言いやがった。


分からないふりができないじゃないの。


「青山…」


「はい?」



「青山 葏忢|《せいご》と話がしたいの」