帰ったあたしはこっぴどく佐々木さんに怒られた。
やっぱり知られていたらしい。
「窓に外側から粘りでもすればいいですか?」
なかなか恐ろしいことを言い出すので、よほどあたしに傷をつけたくないのだろう。
マークが怒ったら怖いもの。
本気なのだ、と悟ったのはこの日のこと。
それでもあたしは仮にもマークの大切な人だと佐々木さんは言うから、生活自体はあまり変わらなかった。
窓にガムテープは貼られなかったし。
自室のドアに外側から鍵がかかることもなかった。
佐々木さんの訝しがる目つきは震え上がるほど怖いけれども。
瑞樹はと言えば、お前のせいで銀深会が忙しいの、責任取ってよ、なんていう始末。
責任なんか、どうとったらいいのかわからない。
だけどあの日、佐々木さんの側にいたことは誰も咎めなかった。
安心したような、そうでないような。
いづれにせよ、あたしにはやることがあるのだ。
「佐々木さん、お願いがあります」
「聴きません」
「大阪に行きたいのですけど」
「何言ってるんですか。というか、話聞いていますか?」
「こうしないと、佐々木さん話聞いてくれないでしょう?」
千夏ちゃんとの約束は果たしたい。
「…ダメですよ」
「分かりました。じゃあ、勝手に行きます」
「それはもっといけません!」
昼下がりの食器洗い中に、怒号があたしの耳を襲った。