「なんでって、俺…お前にすげー酷いことしたんだ」


「そうね」


「絶対苦しめた」


「ええ」


「……だから」


「だから?」


「え?」


「だから、なんなの?そこからあたしが怒らなければいけない理由がひとつも見つからないんだけど」


「いや、分かるだろ!」


「本当は仁にも立ち会ってもらって聞くべき案件だったとは思ってる。勝手に聞いてごめんなさい」


「いや、なんで和佳菜が謝るんだよ!違うだろ?俺を責めろよ」


「だから、なんで?」


「ああもう!同じこと繰り返してんじゃねえかっ!」


「むしろありがとうっていいたいのに」



「…はあ?」


魔の抜けた顔。


変な顔。


仁のそんな顔、初めて見た。



「守ってくれたんでしょう?ありがとう」


「…お前、何言ってんだよ」


「だって、嬉しい。貴方がそうして頑張ってくれたことをきちんと理解できた」


それだけで十分。


幸せだよ、仁。



「もし、どうしても責任をとりたいっていうのなら」


貴方が、申し訳ないと思うなら。


「あたしをずっと笑わせて」


謝罪なんて要らない、好きじゃない。


1年ぶりに倉庫を訪れた時のあたしに言った言葉をそのまま返してあげたい。


「和佳菜…」


「貴方があの時追い出していなかったとしても、きっとマークに見つかって、みんなに迷惑をかけることになっていたと思う」


だから、寧ろこれでよかった。


身を削られるような想いは無駄ではなかった。


「仁のことだから、あたしがあそこから離れられない理由が粗方分かっているのではないの?」


そう言えば、彼はすっと目線を下げる。


やはり、わかっていたのか。


たくさんたくさん調べてくれたのだろう。


だから居場所を突き止めていた。


「本当は大分前からお前の居場所は分かってたんだ。でも、逢いに行けなかった。…マークを下手に刺激すれば、お前に何か危害が加わると思って」


相変わらず、優しい人。


本当にいつも思う。


貴方に出会えて、本当に良かった。



「ねえ、仁?」


顔を上げて。


「あたしはきっともう外には出られないと思う」


佐々木さんにはもう多分、抜け出したことは知られていると思う。


BARに奇襲が入った後にこんなことをしたんだ。


ターゲット|《あたし》に傷がつかないようにますます外出禁止を言いつけられるだろう。


監視もきっと厳しくなる。


それでも、あそこはあたしの居場所だから。


「だけど。戻っても、どんなに時間が経っても。必ず帰ってくる。約束する。だから」



だから。



「帰る場所に、なって」



すると、なんだか不気味に笑って。


「当たり前だろ」


貴方がそっとあたしを抱きしめる。


「何があってもずっとお前の側にいてやる」


離してやるもんか。


貴方は、強くて、優しい、まだ…子供。


だけどあたしも子供なの。


脆くて儚い約束を取り付けるなんて、馬鹿みたいだけど。


信じたいものを信じてみよう。



「必ず、帰ってくるから」



そうしたら、もうきっとこの気持ちに嘘をつくことも。


みないフリをすることもなくなる。


貴方の側でずっと笑っていられるように。




あたしはもう少し頑張るね。