ドクンと、大きく心臓の音が鳴った。


「ごめんなさ、…」


慌てて起き上がった。


幸い歩いているのは、屋根の上。


コンクリートの平らな屋根なので、別に身に危険が及ぶことはない。


なにも、ない。


大丈夫。


それなのに大きな鼓動が、あたしを不自然に赤くする。


おまけに、仁からは何も返事がなくて。


「仁?」


呼びかけて、彼の方に目を向けると。


「焦った」



そう言いながら、そっと引き寄せられる。


そうしてまた、あたしは屋根の上に寝転がる。


ドクンドクンと、高鳴るその音が聞こえてしまいそうで、なんだか怖くて。


だけど貴方の暖かさが、優しくて、自然とあたしを満たしてくれる。


「ごめんなさい」


「もうするな」


「大丈夫、もうしないわ」


「本当か?危なっかしいから、信用出来ねえな」


あたしの顔を覗き込む仁は、けらけらと穏やかに笑う。


「どうしてそんな顔をするの?」


「お前、時々突拍子もないことすっから」


真面目な顔で、頷く。


「…否定はしないけれども」


「だろ」


「でも大丈夫。行きましょう?」


そう言って立ち上がろうとするけれども。


「…仁?」


「このままでもいいだろ」


あたしを抱きしめる力はあたしの行動を妨げるように強くなる。


「そうはいかないでしょう。千夏ちゃん、待っているんでしょう?」


「分かってる。でももうちょっと」


その胸は厚くて、逞ましい、男の人の胸だった。


そうか、仁も男なのか、なんて。



当然のことを思いながら、そのまま身を委ねた。