蒼の花と荒れる野獣Ⅱ



ドクンと、大きく心臓の音が鳴った。


「ごめんなさ、…」


慌てて起き上がった。


幸い歩いているのは、屋根の上。


コンクリートの平らな屋根なので、別に身に危険が及ぶことはない。


なにも、ない。


大丈夫。


それなのに大きな鼓動が、あたしを不自然に赤くする。


おまけに、仁からは何も返事がなくて。


「仁?」


呼びかけて、彼の方に目を向けると。


「焦った」



そう言いながら、そっと引き寄せられる。


そうしてまた、あたしは屋根の上に寝転がる。


ドクンドクンと、高鳴るその音が聞こえてしまいそうで、なんだか怖くて。


だけど貴方の暖かさが、優しくて、自然とあたしを満たしてくれる。


「ごめんなさい」


「もうするな」


「大丈夫、もうしないわ」


「本当か?危なっかしいから、信用出来ねえな」


あたしの顔を覗き込む仁は、けらけらと穏やかに笑う。


「どうしてそんな顔をするの?」


「お前、時々突拍子もないことすっから」


真面目な顔で、頷く。


「…否定はしないけれども」


「だろ」


「でも大丈夫。行きましょう?」


そう言って立ち上がろうとするけれども。


「…仁?」


「このままでもいいだろ」


あたしを抱きしめる力はあたしの行動を妨げるように強くなる。


「そうはいかないでしょう。千夏ちゃん、待っているんでしょう?」


「分かってる。でももうちょっと」


その胸は厚くて、逞ましい、男の人の胸だった。


そうか、仁も男なのか、なんて。



当然のことを思いながら、そのまま身を委ねた。