「和佳菜」
今週のいつかとは聞いていたけれど、こんなに早いなんて。
貴方の呼ぶ声にそっと応えるように頷いた。
どうやって登ってきたのか。
窓枠に手を置いて座ったその人の手をそっと取る。
佐々木さんは、店の方にいるはずだ。
夜にこちらの様子を見にくることはそうない。
大切な物だけ、小さな鞄にしまっておいた。
僅かに残る現金と…。
琢磨からもらったUSBメモリ。
あたしはコンピュータも持っていないから、この中に何が入っているのかはわからないけれども。
琢磨はここに来たことを銀深会に知られる覚悟で、このUSBメモリを渡してくれた。
それは、何か特別な意味を持つはずだ。
そんなたった2つしか入っていない鞄を肩に掛けて。
「行くぞ」
仁の掛け声に小さく頷いた。