「何があったの?」


彼は恐らく話そうと、息を吸った。


その時、何が起こったかはわからない。


仁が頭の中で、何を考えたかなんて、分からない。


ただ、あたしが見たものは、彼が自嘲的にふっと笑ってから。


「…俺の口から話していいのはここまでだ」


どこか泣きそうな顔をして、口を閉じたというものだった。


「相変わらず、ずるい人ね。ここまで言ってその先はおわずけですって?」


「そうじゃない。これは俺が勝手に話していいことじゃないからだ。あいつの過去を勝手に晒していいわけない」


そんなこと、あたしだって知っていた。


知っていて、聞いたことは、ずるいのだろうか。


多分。



心のどこかで、仁はあたしに甘いから、なんて、甘えていたのだろう。


何の自信があったのか。


分かってもらえるなんて、思っていたのだろう。




「仁、千夏ちゃんに会いたい」


「お前、そこまでして知りたいのか…」


「そうじゃなくて」


知りたいけれども。


彼女を追い込んでしまったのは、青山の責任であるけれど。


マークがその糸を引いていた気がしてならないから。


あの人は、あたし以外に対して残酷だから。


だからきっと、彼女は被害者だ。


そして、あたしは間接的にだとしても。



確実に加害者なんだろう。




「和佳菜?」


「色々な話をしたいの。その話だけじゃなくて、彼女を語ることができるくらい、知りたいの」


じっと目を見つめた。


晒さずに、彼の目だけを。


ハア、と仁は軽く溜息をついてから。


「…来週の平日のいつか、午前零時にお前の部屋の窓を開けて待ってろ」

と言った。


「仁、それって」


「お前、軽く軟禁状態なんだろう?日が昇る前に帰すから、絶対にバレないようにしろよ」



「…仁、ありがとう」


ふふっと笑って、空を見上げた。


星は煌々と輝いている。


それはまるで、あたしの小さな不安を晴らしてくれるようだった。








そして、火曜日の夜。


その時はいきなりやってきた。