「千夏は俺を誘惑して、嵌めた」
「馬鹿ね。嵌められて」
「…ように見せただけだ。話は最後まで聞けよ」
「見せたって、感情任せに動く貴方が、そんなことが出来るの?」
「…んまあ、半分騙されかけたって言ったほうが正しいか」
「見えすいた嘘はやめなさいね」
それはそうだ、この男がそんな器用な真似が出来るはずがない。
いつだって、真っ直ぐで、不器用で。
だけど、あたしが欲しい言葉をくれる。
「はいはい」
「どこで気がついたの?嵌められているって」
「どこでだったかなんて、覚えてねえな。でも、少なくとも、俺と千夏がこっそり逃げ出した日には気がついていたな」
「…へえ、ならあの日、千夏ちゃんをどこに送り届けたの?」
仁の目つきが鋭くなった。
「…お前、わかってて聞いてるんだろ」
声はいつも通りだけど、雰囲気が恐怖を増幅させる。
本当に不機嫌なんだろうと、その時悟った。
だけどこんなもの怖くもなんともない。
この人は組で2番目の地位についていたとしても、あたしとさほど歳は変わらない。
「予想は付いているけどね」
「お前も残酷なことするんだな」
「残酷?知っていたのに、送り届けた貴方の方が残酷なんじゃない」
「違う。知っていたのは、千夏が青山の人間だってことまでだ。まさか、あいつがあんな状況に陥ってるなんて、知るはずねえだろ!」
はっと目を見開いた仁。
「あんな状況…?」
それは何を指しているの?
「…あいつは、青山では孤独だった」
それだけで、あたしは思ってしまった。
似てるって。
12歳のあたしと、とてもよく似てるって。