仁が僅かに目を細めた。


貴方はまだ気がついていないみたいね。


「あたし達の世界の嘘はね、決して他人に知られていけないの。その嘘を、ずっと永遠と守り続けなければいけないの」


お説教みたいになっている自覚はある。


だけど仁がこれからもこの世界で生きていくのなら、必ず知っておかなくてはいけない。


「誰かを護る為の優しい嘘も、この世の中必要だと、あたしは思う。だけどその嘘は、絶対に自らを苦しめる罠でもあるの」


貴方の目を見て言うよ。


だから逃げないで。


「嘘をつくな、とも言わない。つかなければやっていけない時だってあるから。だけど忘れないで。自分を犠牲にしてつく嘘は優しい嘘なんかではない。貴方は自分を蔑ろにしてはいけない」


仁はあたしよりもこの世界で生きている時間がずっと長いから、あたしの言葉に分からないフリをして聞いてくれているのかもしれない。


そこまであたしは見抜けない。


「だからあたしは嘘が嫌い」


聞いて欲しかったなんて、結局はそれだけなのかもしれないけれども。


だけど、何処かで。



伝わって欲しいな、とも思ってしまう。



真面目な顔をふっと、仁は緩ませて。


「やっぱり和佳菜には敵わねえなあ」


それから柔らかく微笑んだ。