「そうね、色々あるわ」


沢山ある、それこそどれから聞いたら良いかキチンと正解が出ないくらい。


だけど、あえて、…私情を挟まないのなら。


「…青山のお嬢様、千夏ちゃんはどこに消えたの?」


仁は、目を見開くと。


「なんで…千夏のこと……」


「仁、あたしがいた場所を何処だと思っていたの?危ない人が集まる、BAR・Margaretよ。その時聞いたの。千夏ちゃんが行方不明だって」


彼は俯いて、何かを考えるように視線を宙に漂わせると。


ため息とはまた違ったゆるるかな息をついて。


「千夏は匿って貰ってる、綾に」


そう、答えた。


懐かしい名前だ。


綾は元気にしているだろうか。


ジュリアと仲良くしているのだろうか。


なんて。


「何か、あったのね?」



その興味さえ、全てかき消してしまう。


千夏ちゃんというたった1人の人間があたしに綾のことさえも聞かせない。


「ごめん、和佳菜。これを話す時点でお前を守れないんだけど。それでも、もう嘘つきにはなりたくないから」


彼の目はあたしを射抜いていて、その信念が垣間見えた。


だから大丈夫、というしかないの。


「護らなくていいのよ。あたしは勝手に護られるだけのかよわい女じゃないから」


ふふん、と鼻で笑ってみせる。


「あたしは嘘つきの方が嫌いよ」


「嘘なんて」


「今、現時点ではついていなくとも、ね。これからつくようにあたしには見えた。だってこれから貴方が守ろうとしているのは、あたしじゃなくて千夏ちゃんでしょう」


彼は少し眉を下げて、困った、という顔をする。


それがあたりだと。


あたしになんて悲しい事実を伝えるのだろう。


「ねえ仁、聞いて?」


貴方に視線を合わせようと、必死で、車の助手席の上で膝立ちまでして。


そこまでして、貴方に伝えたいことがあったから。



「その場限りの嘘で、人は守れないわ」