「大丈夫ですかっ?」


起き上がった佐々木さんに駆け寄る。


いきなり立ち上がったせいで、椅子がガタンと倒れた。


でも、そんなことはどうでも良くて。


「平気ですよ。少々痛みはありますが、キチンと治していただけました」


その人が目を覚ました、それだけで。


一気に足の力が抜けた。


「和佳菜様?」


「ごめんなさい、安心してしまって」


力の抜けた足は役に立たない。


佐久間先生が朗らかに笑って。


さっき倒してしまった椅子をたてて、あたしをすわらせてくれた。


「…すみません、あたしが気を抜いたばかりに」


「気を抜いたのは私も同じでございます。これで和佳菜様が間違ってでも刺されたなら、マーク様に顔を合わせられません」


「マークはこんなことじゃ怒らないわよ」


鼻で笑ってそう言えば、いえいえと彼は頭を横に振った。


「和佳菜様のことにおきましては、人が変わりますよ」


「マークは相変わらず和佳菜ちゃんに心酔してるんだね」


「ええ、そうなんです」

なんでもないようにそう佐久間先生が言うから、一瞬飲み込まれかけたけど、慌てて振り向く。


「え、佐々木さん?佐久間先生、マークのこと」


「久しぶりですね、サクマ。…こちらでも医者ですか」


「ほんと、佐々木が運ばれてきた時驚いたよ。まさか佐々木があいつにやられるなんて。世間は狭いなぁ」


わははと2人して笑っている。


えっと、これは…?


あたふたしている佐々木さんが眉間に僅かにシワを寄せた。


「サクマ、言って無かったのですか?」


「憶えている、に望みをかけていたんだけど。なんか、全くって感じで悲しいなあ」


憶えている?あたし、佐久間さんに会ったことがあったということ?


慌てて記憶上を探ってみるけど、日本人なんて、死ぬほど会っているし。


アメリカにいた頃に会った人なら、ほぼマークとともにいたからある程度絞られるけれども。


それでも、幼い頃にあったなら、もう分からないし。