瑞樹は、その言葉の意味を瞬時に理解したようで。
しばらく考えこむような仕草を見せてから。
「それは俺にも分かんないかな」
なんて、平然と言いのけた。
「嘘、貴方が1番良く知っているはずでしょう?」
「自分にだって分からないことがあるんだよ」
「本当に?」
「自分の心の中はいつも白か黒しかないわけじゃないでしょ?グレーだってあるんだから」
何かの悟りでも開くように言葉を放った彼は、そう言って目を伏せた。
「そんなものあるのかしら?」
「あるよ……。和佳菜、君はもう少し人間の勉強をした方がいいかもね」
「じゃあ!」
ならば、聞いておきたいことがある。
あたしにはまだまだ人間の気持ちが良く分かっていないようだけど。
「ここにいる貴方に嘘はない?」
この質問なら、YESかNOで答えることが出来そうだ。
「グレー、かな」
曖昧に笑った瑞樹はあたしと話している間に、支度を終わらせたようで。
「行ってくるね」
とドア口に立った。
「アイス買ってきて」
「そんな暇ないんだって」
「作って」
「無理だよ」
「頑張って」
「できたらね」
「やった」
瑞樹が振り返る。
物憂げな表情が、妙にあたしを寂しくさせた。
「……帰ってきてね」
「うん」
「必ずね」
「うん」
一生会えないわけじゃないんだから。
なんて、瑞樹はあたしを慰めたけれども。
どうも嫌な予感がする。
嫌な予感って良く当たるものよね。
胸騒ぎを必死にかき消しながら、瑞樹の背中を見送った。