「何故、笑うのですか?」


そう聴いても彼はなかなかやめてくれない。


「…はあ…はぁ、私が、ですか?」


やっと一息ついた時、そう逆にあたしに聞いた。


「違うのですか?」


「違いますよ。和佳菜様があの琢磨様という方からお聞きになった通りです」


「じゃあ何故琢磨を…」


何者か分からない男を開店前のバーに入れたのだろう?


「事前に坊ちゃんから連絡を入れて貰っていたのです。“ 琢磨と名乗る男が来たら和佳菜嬢を呼んで会わせてやってくれ ”と」


は?


はあ?


ああ?



「…ええと、佐々木さん。そんな理由であたしをあの場所に行かせたのですか?」


「こんな理由ではいけませんか?」


キョトンとした顔があたしに妙を苛立たせた。


「あのですね。こんな薄い内容の為にあたしが頑張る意味は無かったと思いますが」


「ありましたよ。和佳菜様には銀深会の若頭に会って貰う必要がありましたから」


「そんなこと、あたしに聞けばわかる話でしょう」


「いいえ、平然と嘘をつかれていたら、見破ることは不可能でしょう」


ああ、そうだった。


この人も悲しいこの世界で生きている人なのだ。


信用という言葉が何一つ通じないこの世界。



互いを騙し合う、醜い世界。