「…まさか、あんな裏の世界に長らくいる人間を好きになんかなりませんよ」


「いいえ、貴方はマーク様を想っていましたじゃありませんか」


「2度目はないということです」


思ったより落ち着いた声が出た。


仁との一件は殆どの人間が知らない筈だ。


いいえ、あたしは誰かにあたしの気持ちなんか教えたこともないから、そんなことがあるはずがない。

「さあ?蛇の道は蛇と言いますからね」


それはつまりそういうことが得意な人間に調べさせた、ということだ。



だけど、ちょっと待って?



えっと、どういうこと?


仁に会わせる理由が、気持ちが変わらないか確かめる為?


気持ちって。


何の?


……あ。



「ぷっ、あはははは!ははははははっ!」



「わ、和佳菜様?」


「…ねえ、佐々木さん。それってマークの差し金?」


息絶え絶えにそう聞いた。


あー馬鹿みたい。


「…よく、お分りで」


「マークったら、本当に馬鹿なのかしら?こんな何ヶ月も会わないでいたのよ?久しぶりに顔を思い出した程度よ」


「本当に?」


あたしの表情を全て把握するように、じいっとあたしの顔面を見つめる。


「本当よ。何よ、あたしのこと疑っているの?」


「和佳菜様は嘘をつくのがお得意なようなので」


あたしが嘘が得意?


「何か勘違いをなさっているようだけど、あたしが得意なことは、“嘘を吐くこと”ではなくて、駆け引きをすること”。幸か不幸か嘘は苦手よ」


駆け引きは楽しい。


事実や真実から、他人の気持ちや交渉をどれだけこちら側に有利な形に持っていくことができるかという、ゲームのようで。


だけど嘘は嫌いなの。


何故って嘘はどうやっても本当のことにはならないでしょう?


だから嘘をつくことは苦手だし、最終手段にしか用いらない。