「おまたせしたね。行こっか」
奥の部屋で着替えたあやみさんは、ふわりと優しく笑った。
怖がらないで、という意味が含まれている気がしたのであたしもあたしで柔らかく笑った。
「私服、格好いいです。素敵です」
あやみさんは黒のパンツに黒のレザーのジャケットに、白いTシャツを着込んでいた。
黒いキャスケットも被っており、スタイルがとても良い分、それが余計に綺麗に見せた。
「あら、気遣いが出来る子ね」
そう言うと、じゃあ行ってくるわ、と瑞樹と仁に視線を向けた。
「お邪魔しました。これは…雅か仁どちらでもいいから、組長に渡しておいて」
握りしめていたUSBメモリをそっと見せる。
「わかった」
そう言って受け取ったのは、瑞樹で。
「俺から組長に渡しておく」
なんて、少しだけ凛々しい顔をした。
「仁」
そっと瞼をあげて、仁を呼んだ。
「なに」
「元気にしていて」
それだけ伝えると、あたしは仁を見ないようにして、あやみさん行きましょうと、あたしは部屋から出た。
「貴女、若頭とも付き合いあるなんて一体何者なの?」
あやみさんは不思議そうにあたしの顔を覗き込んだけれども。
「昔から知り合いです」
そう笑ってそれから口を噤んだまま、仁について話すことは無かった。