「入れ」


襖を開け。


「失礼いたします」


中に入ってきた人は。





「…あら、さっきぶりね」



にこりと妖艶に微笑んだ、あやみさんだった。


「…あ、はい」


慌てて頭を下げる。


「あやみ」


「分かっているわよ。この子をお家まで届けてあげるのよね?」


あやみさんは得意げにそういうと、瑞樹がはあとため息をついた。


「…家の近くで十分だよ」


「あらそう?ご主人様の希望であれば、それでいいけど」


それからあたしに再び目を向けた彼女は、ふふっと少女のように笑い。


「じゃあ行きましょか。…ああ、でも着替えてきてもいい?」


あやみさんは着物姿だった。


これは歩きづらいに違いない。


「…はい。どうぞ」


「雅。奥貸して」


奥には襖があり、どうやら部屋があるらしい。


「いいけど…着替えは?」


「持って来るわよ。向こうで着替えたら何かと面倒でしょう」


「…なるべく早くしろ」


「そうする為にここで着替えるのよ。じゃあ、失礼します」


そう言って出て行った。


「さっきも思ったけれども。組に女性は珍しいわよね」


素直に思ったことを告げると。


「あいつは女だけど、かなり強いから。男の1人2人なら十分だ」


それは一向に有り難いのだが。


「誰かの彼女とか、お嫁さんとかではないの?」


あたしが聞きたいのはそちらだった。


「あいつはそういうんじゃない、組員だよ。たった一人でこの世界に入ってきた。怖くてやべえやつだ」



「なんか言った?」


ふと見上げればあやみさんがこちらをにらんでいた。


いや、どちらかといえば、…瑞樹を。


「いや、なんでもない」


まずいと思ったのか、表情を硬くした瑞樹をみて、3人で笑った。