「物騒な言葉が聞こえたのは気のせいか?」



カタンと、障子が音を立ててあいた。


「気のせいじゃねえよ、仁。本当にこいつは自分の命も心も大事にしねえんだよ」


「今に始まったことではないがね」


そうだけどさ、とため息を交えて瑞樹が怪訝な顔をした。


それに笑った仁は、あたしも視界に入れたようで渋い顔をして瑞樹の方へと視線を戻した。


「やっぱり来ていたか」


「まあ、ここしか俺がいれる場所ないし」


「自分の部屋だってもらったろ?」


「あの部屋はいくつ盗聴器付いてるか分からなくて怖いんだよ。昨日で5つ目見つけたし」


「ま、親父はずっとお前のこと信用してんのに、一輝|《かずき》がなあ」


どうやら、この2人はかなり仲が良いらしい。


あたしが分かったことといえばこれくらいだった。



珍しい……瑞樹が誰かと、仲良くするなんて。


「ねえ、あたし帰るよ」


頭の中に出てきた小さな驚きを掻き消すようにあたしは立ち上がった。


「いやいや。和佳菜、それは無理だよ。俺は今お前を問い詰めてることになってるの。ここにいないことを知ったら組長怒って俺と仁の首切っちゃう」


「首を切るはないでしょう」


「組長の精神状態、結構危ないから、まじでやりかねないよ」


そんなあたしを懸命に宥めた瑞樹は、ふうとため息をついてから。


「仁にしつこくお前の過去について問い詰めてたやつがいただろう?」


「ええ」


随分と突っかかってきた人だと認識していたが。


「あれが一輝。俺がスパイじゃないかってすごく疑ってくるやつ」


違うけどな、と笑った瑞樹にあたしはどうしたら良いのか分からない。


瑞樹がどうして騙しているのかを、あたしは想像すら出来なかったから。