桜の間。



かつてここにいた人物は、とても愛された人間だったらしい。



それがこの部屋に顕著に表れている。


とても綺麗な花が描かれている金屏風。


大きな大きなテレビに水回りまで完備されてある。

何不自由なく暮らせるように後付けされたものであることは、この建物の古さが故に装飾が剥がれてしまったことから十分分かる。


「座れ」


桜の間に入った時、そこには誰もいなかった。


仁の姿も、もちろんない。


「佐々木さんに頼まれただけでどうしてこうなる?」


「喧嘩売られると買っちゃうのよ」


「相手はヤクザだぞ?身の程をわきまえろ」


知ってはいるけど、解ってはいない。


「ヤクザだからなに?あたしは自分の命に興味なんかない。組長がどうこうしようとあたしには関係ない」


世界で一番殺しがいのない女かもしれない。



だけどそれでもいい。


むしろ、あたし。



この世から今すぐいなくなりたい気分だもの。