余計なことをしてくれたな、と顔に書いてある。
感情に疎かったあたしがここまでよむことが出来たことにあたしは密かに感動していたが、今は感動をしている場合ではない。
同時にごめんね、と心の中で言いながら重たい腰をあげた。
「あやみ。桜の間は空いているか?」
パラパラと人が大広間から出て行く中、着物を着た栗色の髪の人が振り返った。
呼ばれた女の人は、30代半ばだろうか。
色気を放ち、目は切れ長で鼻筋は通っており、可愛いという言葉より、綺麗という言葉がよく似合う。
一言で言ってしまえば、とても綺麗。
そんな彼女は、少し目をはためかせてから。
「…桜?いつもなら若頭が使ってるんだけど」
「仁がいるならいるでいい。他の人は使ってないか?」
「ええ、あそこは組長の奥様のお部屋だったから」
それから少し笑って、瑞樹に近づくと。
「大事にしてるのね」
あたしを見ながら瑞樹に囁いた。