来客…?


この場所を知る人はそうはいない。


そして、あたしに会いに来る人なんかもっといない。


一体誰が…?





「和佳菜様?起きていらっしゃいますか?」


佐々木さんの言葉にハッとした。


「起きています!ただいま向かいます!」


疑問に思いつつ、着替えて、カウンターへと向かった。


あたしがお店に出てくると、佐々木さんは安心したように笑って。


「いらっしゃいましたよ」


と目の前のカウンターに座った男の人に声をかけた。




その人は、振り向いて、……笑った。


「よう」


聞き慣れた声。


思わず我が目を疑った。


ブラウンのコートに紺のズボン。


ネクタイがコートの下から見えるからきっと下にはスーツを着ているのだろう。


そんな格好が似合う人なんてそうはいないけれど……嘘でしょう?


「琢磨!」


これは夢?


「うっわ!いきなり何すんだよ」


「馬鹿!うるさいわね!あんたが勝手にいなくなるから心配したんでしょうが」


「それは悪かったから、抱きつくなって。…って、お前泣いてんの?」


「本当にうるさいわ。…そこ突くから女の子に振られるんでしょうが」



「それを振られる理由に言い換えるなよ」



「言い換えるわよ!…ああ、本当に良かった」


安心したせいなのか、涙が止まらない。


この1年と少し。


ずっと連絡さえ寄越さない貴方がずっと心配だった。


顔に出さないように必死で笑っていたけども。



辛くなかった日はない。