「あっ!仁が出てきたー!」
落ち着いたあたしと、綾と、そして仁が幹部室から出てくると、一階にいた彼女は嬉しそうにはしゃいだ。
ただ、はしゃいでいるだけなのに、それにどこかトゲを感じるのは何故だろう。
仁は彼女に駆け寄ると、じゃれて遊んている。
あたしのものでもないのに、仁が遠くに行った気がして、なんだか寂しくなった。
「そういえば、彼女は?」
思い出したフリをして、さりげなく綾に話を振る。
「うちの元姫。あいつ転勤族で、またこっちに住むことになったんだとさ」
さらっと説明する綾は彼女に随分と嫌な印象があるのか、不満げに目を細めた。
「綾?顔が歪んでるけど」
「だって俺、あいつが嫌いだし」
あたしが遠回しにやめた方がいいというのが、聞こえていないのか。
綾は躊躇いなく彼女のことを嫌いだと言った。
とても、大きな声で。
「ちょっと、やめなさいよ。面と向かって同じことが言えるの?」
「言えるね。仁がいるから言わないだけだ」
本当に、貴方って人は。
あたしがため息をついたのも、無理はないだろう。