コンコン。
ノック音に驚いて思わず、ドアを見つめた。
「和佳菜、今いいか?」
ああ、誰かと思ったら……。
「なに?瑞樹」
「今日の夜、店にマスターと一緒に出てくれないか?」
「いいけど。お店に?」
夜、6時から佐々木さんはいつもBARを開いている。
だけど、あたしがそこに出たことはなく、出られるはずがないと思っていた。
「そうだ。俺は居られないけど、失礼のないようにな」
「それは、気をつけるけど。珍しいのね」
あたしが外に出られない理由は分かっている。
マークに引き渡すため。
あたしが逃げると思っているのだろう、そうさせないために、この家の中でのみあたしの自由を許している。
「ああ。少々訳ありだからな」
その少々訳ありの意味をあたしはきちんと理解していなかった。
それを理解していれば、あたしはそこにいることはなかったのに。



