『あいつは……青山組のお嬢だ』
「瑞樹」
昨日のことが頭の中から離れない。
「なんだ?」
「…ううん、なんでもない」
なんだよーと笑う瑞樹になんでもないを繰り返した。
聞けない。
聞くことなんて絶対にできない。
だって聞いて仕舞えば、彼は大体のことを察してしまう。
理解して、何も言わないに違いない。
青山組。
東の銀深、西の青山。
裏の界隈では随分有名な話だと、琢磨から昔聞いたことがある。
だけどあの子の名字は、相模。
青山ではない。
だから意味がわからない。
もともと、あたしは南を信用してはいない。
だけど、あの瞳は。
嘘をついているようには見えなかったんだよなあ。