彼が、…南が眉を顰めて、あたしの腕を掴んで端に引っ張った。
「…声がでかいよ。ぼく、お姫様にお話があって話しかけたのに」
「じゃあさっさと話してよ。さっさとしないと、佐々木さん来ちゃうわよ」
そういえば、南は少し黙って、それからわかったと言った。
佐々木さんがいないところで話しかけてきたあたり、彼とはあまり会いたくないことはそれとなく感じていたのだ。
「千夏のことで、面白いことがわかったよ」
「千夏ちゃん?」
懐かしい名だ。
「あいつは……______」
「……和佳菜様。おまたせいたしました」
見上げると、あせった顔をした佐々木さんが立っていた。
佐々木さん、遅かったね。
あと数秒前に来ていたら、彼はまだここに居たのよ。
「どうしたんですか?随分と余裕がなさそうですけど」
ふっと笑ってみせると、深刻そうな顔をした佐々木さんが辺りを見回しながらこう言った。
「さっき、南 和馬(みなみ かずま)の声が聞こえた気がしたのですが」
お会いしておりませんか?
というその目はもう既に知っていたように思う。
あたしがここで彼と話したことを。



