「…なぜ、そういうことになるのでしょうか」
驚きすぎて、すぐに声が出なかった。
あたし、ただ単に心配しただけなのだが。
「すみません。あまり人を信用できないたちでして」
彼がハッとして申し訳なさそうに謝っていたところを考えると、そういう立場にいるのかと思った。
佐々木さんがどういう立場であるかは知らない。
だけど、瑞樹と深い間柄である以上、表の世界の人間ではないことは確かだ。
そんな世界にいる以上、信用できる人などほぼいないことが当然だろう。
「いいえ、いいんです。じゃあ、…口で約束するには難しいので、外に出ない証拠としてカートを持っていることとします」
「証拠、ですか」
彼はまだお手洗いには行っていなさそうなので、簡潔に説明することとする。
「あたしはお財布を持っていません。持っているのは、佐々木さんだけです。だから、このままカートを持っていることで、約束を守っていましょう」
「置いて逃げたら?」
「それが不安ならば早めに戻ってください」
にっこり微笑む。
信じて欲しいけれども、今の彼にはきっとそれができないから。
これしかない。
ほかに方法があったとしても、今あたしが思いついた方法はこれしかなかったのだ。
彼は考える間もなく。



