「ああ、あるかも」
瑞樹も何処か心当たりがあるようだった。
昔から冷酷な人だったから。
自分の大切なもの以外はぞんざいに扱う。
だから記憶の扱いも、上手ではなくて。
どんな人でも、多分あたしに限らず、瑞樹や佐々木さんだってそうだと思うけれど。
嫌な記憶を翌日には完全に消し去ることなどできないと思う。
でも彼は至極当然のように忘れる。
嫌な記憶は、頭の中から追い出して。
幸せで自分にとって楽なものしか頭の中に残さない。
だから彼は全く後悔せずに、どんな任務も簡単にやってのけてしまう。
だからきっと、覚えていないと思う。
あたしにとって大切な人だとしても、その人を死に追いやったとしても。
あの人にとってはそれは日常の一部に過ぎないのだから。
でも、と瑞樹は、口を開いた。
「意外と覚えてるかもよ」



