「行かなきゃ」
きっと瑞樹も佐々木さんも待っている。
ふと時計を見ると、もう時刻は11時を回っていた。
あまりゆっくりしている暇はない。
ベッドから起き上がり、1つ大きな背伸びをした。
「よし」
今はひとまず、怒りも悲しみもしまっておいて、瑞樹のご飯を楽しもう。
怒るのはあたしじゃなくて蓮だ。
その蓮はもうこの世にいないけど。
怒るのは蓮を悼む、 “ あれ ” があった日だけで十分だ。
悔しくて、今だって泣くことなど容易だけれども。
彼なら、真っ直ぐマークなんか気にせずに前を向けというに決まっているから。
『和佳菜、忘れないで。あの方に汚された記憶も、この苦しい記憶も全部忘れていいから。…だから』
忘れないよ。
貴方がずっと居たことも、貴方を失った悲しみも。
『君の人生はここからがスタートだってことを』
貴方の最期の言葉も。



