あたしも瑞樹も慌てて振り返る。
気がつかなかった。
そこにまるでずっと居たかのように、佐々木さんは困った顔をして、入り口に立っていた。
その空気に、あたしも瑞樹も気がつかないなんて。
あたしが気がつかないことは万が一あったとしても、瑞樹が気がつかないことはそうない、はずなのに…。
「…マスター、いつから」
「おや気がつきませんでしたか?あなた方が言い争いを始めた時からずっと居ましたよ」
かろうじてあげた瑞樹の声にも、相変わらずの声音で話す佐々木さん。
彼はにこりと笑って。
「ほら、もうご飯ですよ。坊っちゃんは起こしに来たはずなのに、何をしているんですか」
「あー…っと」
気まずそうに佐々木さんから目を逸らした瑞樹を小さく笑った佐々木さんは、あたしにも目を向けた。
「和佳菜様も、朝から喧嘩することはないじゃないですか。これからしばらくはここにいらっしゃるのでしょう?」
仲良くやりましょうよ、先は長いのだから。
そう言っている気がした。



