「さすが、マークの愛するお姫様。君は察しが良くて嬉しいよ」
にこりと綺麗な笑顔を見せた瑞樹は、もうこの世界が長いからか、随分と狂っている。
主人の為に、命をかけて職務を遂行する。
彼がマークのためにできることはそれだけだから。
『あたしを、…マークの元に返すつもりね』
ずっと気になってはいたのだ。
マークの愛するお姫様。
愛した、ではなく。
愛する、という言葉の意味を。
彼はまだあたしを求めている。
それを直感した。
あたしを置いて逃げたくせに。
あたしを裏切ったくせに。
どの面を下げてあたしに会うつもりなのだろうか。
助けてくれて、ありがとうというつもりだったが。
全くありがたくない事態に発展している。
あたしには会う意思がないから。
だけど、目の前のこの人はあたしを連れて行くつもりだろう。
あたしが泣いたって、怒ったって。
あの人に命をかける瑞樹が、あたしの願いを聞き入れるはずがない。
あの人に心酔した瑞樹を助けることができるのは、弟の悠人しかきっといない。