キャリーバッグを手にドアを開けた。


やっぱりそこにいるのは仁だけで、驚いたように目を見開いた。


なによ、嘘だとでも思っていたの?


信じられてさえいなかった悲しみに、グッと唇を噛んだ。


仁の顔をわざと見ないようにしながら階段を降りる。



きっと見たら、…涙が溢れてしまうから。



「…和佳菜」


寂しそうな仁の声にわからなくなる。


なんでよ、どっか行けって言ったのは貴方でしょう。


なんでそうやってあたしを惑わすの。


仁の横を通り過ぎる時に、映画みたいなことを言ってみた。


「…さよなら」


こんなこと、言う日が来るなんて思ってもみなかった。


言う日が来ても欲しくなかったなあ。



本当に大嫌い。



だけど、大好き。



さよなら、大好きな人。