「支度、終わっちゃったじゃない…」
あたしが居た部屋はものが所々に置いてある、なんだかまだまだ生活感の残る部屋になった。
あたしのいない部屋になるのに、まだまだあたしがここにいるかのよう。
「大嫌い……」
呟いた嘘は空気に消えた。
仁の元に届かなくてよかったと安心してしまうあたしがいる。
だって嘘だから。
もう、気がついてしまっているから。
比較的感情に疎いあたしが気がつくには結構な時間を要したけれども。
大丈夫、しっかり気がついている。
だから、余計に辛いのだけど、ね。
やっぱり仁は来ない。
あたしが居なくなったってどうも思っていないのだ。
それがあたしを苦しめるのに追い討ちをかけた。
「…行かなきゃ」
もう行かなきゃいけない。
いつまでもここでうじうじしているほうがみとっもない。
部屋でパソコンばかりいじっている悠人は、ヘッドホンをつけて外の世界を遮断しているからあたしたちが言い合っている声は聞こえていないだろう。
いつもここに泊まっている翔は外で食べてくるから遅くなると言っていた。
仁が居なくなってから泊まっている綾は、他の族の人間から情報を貰いに出かけて、どこかで一泊するから今日は帰って来ない。
そう、ここであたしを止めてくれる人はいないのだ。
仁以外には。