仁からふいと目を背け、自分の部屋を目指した。
「なにしてんだよ」
追うように仁があたしを見た。
怒りが一瞬で爆発した。
「なにしてんだよ、じゃないでしょ!準備しているの!あたしがここから出て行くために」
「お前…そんな」
「今更止めたって無駄だから。あたしは貴方に失望したの」
居なくなってやる。
本気でそう思った。
階段を上って、3階の自分の部屋に入る。
自分が持ってきたトランクに必要最低限のものを入れた。
あんたなんか大嫌い。
あたしが凄く凄く心配したことさえ知らないで。
理不尽極まりない事ばかり。
なんでよ、どうして。
涙は依然として止まらない。
それどころか余計に酷くなって。
「うっ……うう」
咽び(むせび)泣いてしまう。
大嫌い、大嫌い……なのに。
全部嫌いになれないことが余計に辛かった。
本当は、どこかで止めて欲しかった。
止めても無駄だからなんて、そんなことはなくて。
一度でも止められたら、きっと縋ってないてしまう気がした。
だけど、いつまでたっても仁は止めに来てくれない。
やめろよ、出て行くなよ、なんて言ってあたしの部屋に入ってきてくれない。
あたしを抱き締めてもくれない。



