『もともとつながりを持ちたがったのは、向こうなんだ。…ほら、色々と取引がしやすいでしょ?』


あたしが不幸せだと、琢磨に嘆いたあの日。

そしてあたしと獅獣とが、離されたあの日。



あたしは、千歳(ちとせ)にいちゃんと昌(まさ)さんから聞かされた言葉を思い出した。



取引がしやすい、の意味をその時のあたしはよく分かっていなくて。


だけど、それ以上にあたしは仁と、獅獣という居場所を失うことが悲しかったから理解しようともしていなかった。


今なら分かる。


あれはあたしがマークの昔の彼女であったから、だったのだ。

マークはあたしを凄く可愛がっていた。


それが本心だったのか、あたしには分からないけれども。


少なくとも仁の家である銀深会はそれを本心だととった。


あたしというパイプを通して覚せい剤や大麻を手に入れようと企んだのだ。



ああ、それなら理解できる。


仁があたしにイギリスに『行くな』と言った意味も。


全ては自分の家のため。


そこに私情を挟んでいなかった。


ここに居てほしいのは、あたしじゃなくて。



マークの元恋人だった。