「ねえ、クランクアップしたら一緒にどこか遊びに行かない?」

「行きません」

「大人っぽく夜景の見えるレストランでディナーもいいわよね」

「行きませんよ」

「あ、それか隆矢君のお家に……」

「草野さん」

噛み合わない話に会話を諦めて立ち上がると美佐はにこにこと笑顔で見上げてくる。
そんな美佐に小さく溜め息をつくと隆矢はゆっくり口を開いた。

「正直に言って迷惑です。
俺にまとわりつくのも、ユウナに嫌味を言うのも、浮気の写真だとか言って別れさせようとするのも、いい加減にしてもらえますか?」

「なに言ってるの隆矢君、私まとわりついてなんて……」

「迷惑だと言ってるんです」

少し大きめの声ではっきり言ったからか周りの人にも聞こえたようで、険悪な雰囲気に誰もが動きを止めてこちらを見ているのがわかった。
一瞬唇を噛み締めた美佐はほんの少し俯くと何度か話そうと唇を動かしてからやっと話し出した。

「隆矢君は騙されてるのよ……」

「騙されてません」

「気付いてないだけよ。
みんなあのヘラヘラした笑顔に騙されてるだけ」

「ユウナはそんな人じゃありません。
ずっと見てきたんですからわかります」

「っ……それなら私だって、ずっと隆矢君を見てきたのに……っ!」

勢いよく顔を上げた美佐は涙目で隆矢を見上げた。

わたさないーー

そう唇が動いたと思ったら次の瞬間美佐はスタジオを飛び出し走り去っていった。